プレゼント企画結果発表

【加藤治郎賞】

あたらしい手のひらが待つ夕暮れに水たまりの水はねあげてゆく
日高香織


(選評)
新しい家庭を想像した。新婚だろう。
手のひらは初々しい。晩御飯の準備で、野菜を洗ったり、食器を出したり、手のひらはがんばっている。そして、私を待っている。その手のひらは、私を包んでくれるだろう。夕暮れ、待ちきれず、私は早めに退社するのだ。
雨上がりの夕暮れ。水たまりが煌めく。急いで帰ってゆく私である。

<加藤治郎選・佳作>
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる  (沼尻つた子)
十二月二十四日の新聞で片方だけの茶碗をくるむ  (龍翔)
あたらしい本のにおいの雨の中どこまでも行くよんでくれたら  (田丸まひる)
ああ せかいはじめましての声がする皆殺しにはほど遠い朝  (山田水玉)
新雪と呼ばれる前に消えてゆくすべてのために冬の灯はある  (穂崎円)


【東直子賞】

天気雨 透けた果実のように世界は○みたい 支度しましょう  
藤本玲未

(選評)
新天気雨に覆われた世界が「透けた果実のよう」であるという比喩は、体感的でうくつしく、説得力がありました。その上で「世界は○みたい」、つまりこの世界は大丈夫、いい感じですよ、ということでしょうか。心に浮かんだ、鮮度の高い言葉としてインパクトがありました。結句の言い聞かせるような丁寧な口調に変わる点もやわらかな前向きさが感じられます。今までみたことのないような新鮮な歌でした。

<東直子選・佳作>
新しい白衣を部屋に吊る腕の影が窓からはみ出してゐる  (大西久美子)
新しい人を歓迎するときの原始人から継いだ祝宴  (山崎修平)
新聞でくるんで捨てた夕まぐれなまぐさい手で紅茶をいれる   (渋沢綾乃)
「お金ならあるの」と叔母はデパートの手帳売場の白紙を見てる   (大平千賀)
抱きしめて記憶をつなげるあたらしいあなたの腕は細くてきれい  (雨宮真由)


【木下龍也賞】

ひかる朝 夢のつづきの新雪に不在の猫のあしあとを追う  
桔梗

(選評)
夢と現実の間で揺らぐ作中主体をうまく描いていると思う。目が覚めて拾い集めたカード。「ひかる朝」「新雪」「不在の猫(書かれてはいないが恐らくこの世にいないのではないか)」。カードの中の「新雪」が夢で見たものと同じであるために(「ひかる朝」も夢で見たものと同じかもしれない)「不在の猫」というカードの存在をあやふやにし「あしあと」というカードを生みだした。しかし、その「あしあと」というカードは手に取るまえに消えてしまうだろう。「不在の猫」というカードはどうしようもなく現実なのだから。

<木下龍也選・佳作>
元日の空気をz i p l o cジップロックして少しずつ出してゆこうと思う  (市岡和恵)
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる  (沼尻つた子)
永遠に旧くはならぬ新幹線の最高速度ふたたび上がる  (村田馨)
〈風袋消去〉を押して表示をゼロにするような気持ちで朝を迎える  (牧野芝草)
勝ち負けはいつかつけども最初はグー並んで眠る新生児室  (住友秀夫)


【鯨井可菜子賞】

あの道がここに続いてゐたのかよ自販機で買ふポカリスエット
山下翔

(選評)
通い慣れた道から、ある日冒険してみようと踏み出した先で、結局見知った地点に行き着いてしまった。そこにある自販機でやれやれとポカリスエットを買った、というシーンと読みました。上句はそのときの「なんだよ〜」という気持ちを口語でそのまま自然な呼吸で表したもので、下句も落ち着いたトーンでまとめていますが、ポカリスエットを買うという行動は、「日常に帰ってきちゃった」感を表して絶妙に効いています。また飲み物のチョイスからも、「あの道」から踏み出した後けっこうな距離・時間を歩いたのではないかと伺えますし、自動販売機でものを買うとき独特の屈みこむ動作も浮かび上がり、何か、嫌味のない清々しい徒労感を感じさせます。

<鯨井可菜子選・佳作>
新しい白衣を部屋に吊る腕の影が窓からはみ出してゐる (大西久美子)
雪に効き岩には効かぬアイゼンであなたと歩くあたらしい冬 (高松紗都子)
おだやかな春の引き潮 新任のテトラポッドが持ち場でサボる (山階基)
新品の球投げ返す思ひ出のあればわたしはさびしい冬菜 (金尾釘男)
あたらしい銅貨のやうに少年の自転車バイクは坂をくだつてゆきぬ (飯田彩乃)

【堀合昇平賞】

しがらみを解かれて背からダイブする新幹線の最後尾席
加納舞子

(選評)
接待を兼ねた出張の終わり。開放感一杯で新幹線のシートに身を委ねるのだ。「し」がらみ、「せ」から、「し」んかんせん、「さ」いこうびせき、とサ行の音の連続が小気味良いリズムを成す。その中心に「だ」いぶ、とタ行の強い響きを据えることがアクセントとなる。つまり韻律で一気に納得させるのだ。まったく僕らはダイブを何度繰り返すのだろう。

<堀合昇平選・佳作>
五百ミリペットボトルを飲み干して五百ミリ僕は新しくなる (ユキノ進)
今度ね、と出口で指をはずされて冬の瞳のあなた新月 (たえなかすず)
新しい樅の木かつぎ来る人の冷えた外套ごと抱きしめる (相田奈緒)
あたらしい銅貨のやうに少年の自転車バイクは坂をくだってゆきぬ (飯田彩乃)
それからの日々はさながらおろしたてのヒールで歩む砂利道でした (松本むつ)

【天道なお賞】

新しい空がめくれて歯を磨く 昨日のわたしはわたしを知らない
増田一穗

(選評)
わたしが日々更新されていく、というようなイメージでしょうか。空がめくれ、歯を磨くという日常動作につながっていく様がシュールでありとても鮮烈でした。言葉選びも骨太な感じで印象的でした。これからも鮮烈な表現とたくさん出合えますように!

<天道なお選・佳作>
新雪と呼ばれる前に消えてゆくすべてのために冬の灯はある (穂崎円)
新品の球投げ返す思ひ出のあればわたしはさびしい冬菜 (金尾釘男)
ああ せかいはじめましての声がする皆殺しにはほど遠い朝 (山田水玉)
秋風にほぐれだす髪新田のバス停前でこころを飛ばす (こずえユノ)

【斉藤真伸賞】

あたらしい銅貨のやうに少年の自転車バイクは坂をくだつてゆきぬ
飯田彩乃

(選評)
銀貨でも金貨でもなく、銅貨という言葉の選び方に妙味がある。
自転車というものが持つ生活感をよく表している。こういう細かいところに歌の命が表れる。

<斉藤真伸選・佳作>
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる (沼尻つた子)
勝ち負けはいつかつけども最初はグー並んで眠る新生児室 (住友秀夫)
二年前学生証を投げ捨てた旅館の庭に花咲く どうも  (原 必)
新しい空がめくれて歯を磨く 昨日のわたしはわたしを知らない (増田一穗)
十二月二十四日の新聞で片方だけの茶碗をくるむ (龍翔)


【陣崎草子賞】

しがらみを解かれて背からダイブする新幹線の最後尾席
加納舞子

(選評)
進行方向に「ひかり」や「のぞみ」といわれる高速度で突き進む車体と、反対方向に投げ出す身体。運動のベクトルが交差する。「新幹線」のスピード感と、しがらみを解かれた「私」の一瞬の浮遊感の中に、これから何かが始まりそうな危うい予感が微量に含まれる。「私」は疲れているから寝たいのでしょう。しかし、「新幹線」「ダイブ」といった語の選択が、はからずも疲労や倦怠とは反対性の躍動感を生み、一首を重奏的にみせている。

<陣崎草子選・佳作>
ひかる朝 夢のつづきの新雪に不在の猫のあしあとを追う (桔梗)
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる (沼尻つた子)
元日の空気をz i p l o cジップロックして少しずつ出してゆこうと思う (市岡和恵)
それからの日々はさながらおろしたてのヒールで歩む砂利道でした (松本むつ)
新しい人を歓迎するときの原始人から継いだ祝宴 (山崎修平)

【田中ましろ賞】

「お金ならあるの」と叔母はデパートの手帳売場の白紙を見てる
大平千賀

(選評)
普通なら「新しい手帳を買う」行為は前向きに描かれることが多いでしょう。しかしこの一首にはどこか不穏な空気があります。前向きにも取れるけれど僕は、「お金はあるが予定はない寂しさ」として読みました。「白紙」が持つ自由と孤独の二面性。その紙一重の心境が景の描写だけで見事に描かれています。

<田中ましろ選・佳作>
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる (沼尻つた子)
勝ち負けはいつかつけども最初はグー並んで眠る新生児室 (住友秀夫)
おだやかな春の引き潮 新任のテトラポッドが持ち場でサボる (山階基)
新品の球投げ返す思ひ出のあればわたしはさびしい冬菜 (金尾釘男)
新雪と呼ばれる前に消えてゆくすべてのために冬の灯はある (穂崎円)

【岸原さや賞】

新雪と呼ばれる前に消えてゆくすべてのために冬の灯はある
穂崎円

(選評)
冬の夜の街灯。その円形の灯りのなかをかすかに白くよぎるものがある。それは路にふれて姿をなくす。この冬初めての雪だったのだろうか。名づけられる前に消えてゆくあらゆる儚い存在への痛みが伝わるうた。新雪、消える、すべてのもの、冬の灯。初々しく始まりひろがりを与えたのちに「冬の灯」に収斂させる手腕が見事。

<岸原さや選・佳作>
それからの日々はさながらおろしたてのヒールで歩む砂利道でした (松本むつ)
今度ね、と出口で指をはずされて冬の瞳のあなた新月 (たえなかすず)
あたらしい靴をはいた日、わたくしは翼を持たぬ犀を尊ぶ (中家菜津子)
新月にうさぎを抱いてわたしたちどこに帰ればいいんだろうね (國枝晴子)

【望月裕二郎賞】

新聞でくるんで捨てた夕まぐれなまぐさい手で紅茶をいれる
渋沢綾乃

(選評)
「新聞でくるんで捨てた」ものがあえて省略されることで不気味さを呼ぶ。生魚か肉類かあるいは……。自らが生きるために生きているものを食うときも、生き死にとは無縁の嗜好品である紅茶をいれるときも、同じ「手」を使うことの不気味さ。

<望月裕二郎選・佳作>
あの道がここに続いてゐたのかよ自販機で買ふポカリスエット  (山下翔)
勝ち負けはいつかつけども最初はグー並んで眠る新生児室  (住友秀夫)
和草に勝利の女神をみた窓辺 わたしはわたしのために生きる  (斉藤千紗)
二年前学生証を投げ捨てた旅館の庭に花咲く どうも   (原 必)
明日あると思う心の不可思議に空を浮かべて歩いてゆかん  (澤田順)

【嶋田さくらこ賞】

泣いたとこ初めて見たよ泣かせたの僕だったけど見とれていたよ
天国ななお

(選評)
初めて見た彼女の泣き顔に、自分が泣かせた罪悪感よりもその美しさに見とれてしまう、という男心にどきどきします。思わず涙がこぼれてしまう、感情があふれてしまったときの、素直な女性の表情は本当に美しいです。「僕」の独り言のように書かれているのに、そんなシーンを想像させてくれる、この歌がとても好きです。

<嶋田さくらこ選・佳作>
あの道がここに続いてゐたのかよ自販機で買ふポカリスエット (山下翔)
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる (沼尻つた子)
勝ち負けはいつかつけども最初はグー並んで眠る新生児室 (住友秀夫)
おだやかな春の引き潮 新任のテトラポッドが持ち場でサボる (山階基)
珈琲、ビターチョコレート、新聞紙。父の最後の朝残されて (片山由加)


【特別賞】


<最多佳作入選作品>
新聞が新聞紙となるあけがたに行方不明者は死者へとかわる
沼尻つた子



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